第10回大会記

関東学院大学 古庄 修 
(2006.9.1-2 北海道大学)


統一論題 非営利法人制度改革の動向と問題点─現実と理念の架橋を求めて─


 2006年9月1日と2日の両日、非営利法人研究学会第10回全国大会が、北海道大学(準備委員長:小島廣光氏)において開催された。1日目は、会員総会に引き続き、大矢知浩司氏(九州産業大学)の司会により、本大会の統一論題「非営利法人制度改革の動向と問題点—現実と理念の架橋を求めて—」の報告と討論が行われた。
  統一論題の報告者ならびに報告テーマは、⑴中藤 泉氏(内閣審議官  行政改革推進本部事務局次長)「公益法人制度の抜本改革について」、⑵出口正之氏(国立民俗学博物館、国際NPO・NGO学会会長、政府税制調査会特別委員)「租税法定主義とネット・サイズ理論—非営利法人制度改革における現実と理念の架橋の重要性—」、⑶道明義弘氏(奈良大学)・伊藤研一氏(摂南大学)「組織論はF.D.ローズベルトを助けたか?」、⑷東海林邦彦氏(日本大学)「民事法的視点から見た(2006年)非営利法人法制改革」であった。

  本大会における報告の概要

 各氏の統一論題の報告要旨および質疑の内容は以下のとおりである。

⑴ 中藤 泉氏の報告要旨
 公益法人制度改革に直接携われた中藤氏は、今般の制度改革が「官が決める公益活動」から「民が決める公益活動」への転換を図るものであり、法人設立等に係る従前の主務官庁制・許可主義を廃止した新制度の特徴および新制度への移行措置等について分かりやすく説明された。氏は、新制度の周知徹底、政省令や内閣府令の制定、公益性の認定に係る第三者機関の設置、税制上の措置等を今後の制度上の課題として示された。また、法人自治の確立、寄附文化を醸成する説明責任の履行と積極的な情報公開等が各法人に求められることを強調された。

⑵ 出口正之氏の報告要旨
 出口氏は、公益法人改革関連3法において積極的位置づけが謳われている「民間が担う公共(公益)」の本質を㈰非営利性の議論、㈪民間性の議論および㈫公益性の議論に求めて詳述し、主として税制上の問題を検討された。氏は、「新しい公共」の担い手として非営利・非政府セクターの重要性を強調するとともに、公共財の供給に係る「租税歳入論」と「寄附による投票」および租税回避をめぐる「メッシュ・サイズ理論(ネット・サイズ理論)」等について独自の議論を展開して、非営利セクターの常識にあった制度設計の必要を主張された。

⑶ 道明義弘氏・伊藤研一氏の報告要旨
 道明氏ならびに伊藤氏は、米国のニューディール政策が実行される中で、行政機能が拡大した結果、行政コストが増加しコントロール問題が生じてきたことを契機として、節約と効率が大きな課題となったことを膨大かつ詳細な資料によって実証された。両氏は、1930年代当時の米国が抱えた問題は、今日のわが国の非営利組織が直面している問題と軌を一にするとの認識を共有するものであり、本報告では、特にブラウンロー委員会の構成と提言について論及し、行政組織改革に伝統的な管理原則論が理論的支柱として援用されたこと、また予算機能と効率の関係等について研究の方向を示唆された。

(4) 東海林邦彦氏の報告要旨
 東海林氏は、今般の非営利法人法制改革は、民間非営利組織に対する行政的規制・官益的乱用等の旧来の悪弊の是正および民間非営利組織の内部的ないし外部的ガバナンス体制の整備の点で評価されるとする一方で、幾つかの問題点ないし課題が残されているとして、特に民事法的視点から9つの論点を示された。氏は、いわゆる「一階部分」と「二階部分」からなる新法の基本構造、「一階部分」が公益的団体と共益的団体とを区別しないこと、「一階部分」における一般社団法人と一般財団法人の二元的類型等について、批判的な議論を展開された。
  報告後の討論では、公益法人制度改革後、特例民法法人となる現行公益法人の公益社団・財団法人または一般社団・財団法人の移行あるいは解散・営利転換等の予想される動向について、公益性の認定に係る問題について、公益法人をめぐるガバナンス問題について、公益法人制度と税制をめぐる問題について、わが国が直面している問題に対する米国の政府組織改革のインプリケーションについて、効率性と有効性の概念規定および当該概念の非営利組織に対する適用をめぐる問題等々について、活発な質疑が行われた。

 大会2日目には、午前中に9名の会員による自由論題報告が3会場に分かれて行われほか、午後にはYOSAKOIソーラン祭り組織委員会専務理事の長谷川 岳氏による特別講演「YOSAKOIソーラン祭り—街づくりNPOの経営学—」が行われた。また、これに続いて、原田満範氏(松山大学)の司会により、東日本研究部会(主査:小島廣光氏)「NPO、政府、企業間の戦略的協働」および特別研究部会(主査:石崎忠司氏(中央大学))「公益法人の財源(贈与・遺贈等)に関する多角的検討」の各報告と討議が行われた。

新制度の施行に向けた節目の年に

  2日間にわたり、緑多き広大なキャンパスの中で晴れやかな初秋の風を感じながら、本大会は多数の参加者(106名)を得て盛会のうちに幕を閉じた。
  新制度の施行に向けた節目の年に 翻って、本大会は学会創立から10回目を数え、しかも新しい公益法人制度が成立した大きな節目の年に開催された大会でもあった。まさに時宜を得た統一論題報告をはじめ、充実した大会プログラムをご準備頂いた小島大会準備委員長ほか大会関係者の方々に心から御礼を申し上げたい。
  なお、大会初日の会員総会において、創立以来今日までの学会の運営に係る功労を称えて、(株)全国非営利法人協会(理事長 深町辰次郎氏)に対して、学会から感謝状と記念品の贈呈が行われた。また、現会長の松葉邦敏氏(成蹊大学名誉教授)が本大会をもって辞意を表明されたことを受けて、理事会の議を経て、大矢知浩司氏が次期会長に選出された。

付記:本大会会員総会において、藤井秀樹氏(京都大学)が学会賞を受賞された。受賞論文は「非営利組織の制度進化と新しい役割」(『非営利法人研究学会誌』第8号、2006年)である。